「サエさん、タスク管理を整えたいんです」
クライアントのM様(精肉サブスクリプション経営)とのプロジェクトは、当初そんなご相談から始まりました。
確かに、Notionで「Inbox(未処理箱)」を作り、タスクを整理することは重要です。
しかし、ヒアリングを重ねていくうちに、優先順位をガラリと変えるべき事実が見えてきました。
それは、目の前に迫った「年末年始の繁忙期」への対策です。
タスク管理などの「守りの基盤」を作る前に、まずはお客様へ商品を届けるための「顧客名簿の信頼性」を担保しなければならない。
私たちは「理想的な環境構築」を一旦すべて棚上げし、泥臭いですが確実な「名簿整備」に全力を注ぐことに決めました。
1. CSVデータの「重複」という壁
当時、現場で課題になっていたのは、カートシステムから出力されるデータと、実際の配送リストの乖離(ズレ)でした。
- データの重複:システムからCSVを吐き出すと、同じお客様のデータが複数行にまたがって出力される場合がある。
- 手作業の限界:これを目視で「この行とこの行は同じ人だ」と判断して削除(名寄せ)していたが、件数が増えればミスは避けられない。
- 情報の分散:住所変更やスキップ依頼が、システム上のデータには即時反映されない仕様だった。
このまま年末のオーダーラッシュを迎えれば、誤配送のリスクが高まります。
かといって、カートシステム自体を乗り換える時間もありません。
2. Pythonで「確実性」を担保する
ここで私が提案したのは、手作業でのチェックをやめ、プログラム(Python)による機械的なデータ整形を挟むことでした。
人間が目で見て確認すると、疲労や思い込みで必ずミスが起きます。
しかし、コードであれば「ルール通り」に100%の精度で処理できます。
カートから出力された生のCSVデータを、そのまま使うのではなく、一度Pythonのスクリプトに通すフローを組みました。
- 重複排除(Deduplication):顧客IDをキーにして、重複している行をプログラムで自動削除。
- データ整形(Cleaning):表記ゆれを統一し、Notionに取り込みやすい形式へ変換。
これにより、「データが合っているかどうか」を心配する時間をゼロにしました。
こうして整形されたデータをNotionのデータベースに流し込み、まずは「絶対にミスのない顧客名簿」を完成させました。
3. それは「効率化」とは言えないかもしれないけれど
正直に告白すると、エンジニアとしての私は、この解決策に100点満点をつけているわけではありません。
なぜなら、これは完全な自動化ではなく、あくまで「アナログな運用を、デジタルの力で補強した」段階に過ぎないからです。
もっと時間をかければ、API連携でリアルタイムにデータを同期したり、ボタン一つですべて終わるシステムを組むこともできたでしょう。
しかし、目前に迫った年末商戦の前で、新しいシステムの使い方を覚えるコストや、予期せぬバグのリスクを負うことはできませんでした。
「今は、スマートさよりも、確実性を取る」
結果として、Pythonで名寄せしたリストをNotionに置くというシンプルな構成でしたが、M様からは「これで安心して年を越せます」という言葉をいただきました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、魔法のようなツールを入れることではなく、こうした「現場の安心感」を作ることにあると再確認したプロジェクトでした。
4. 売上拡大に耐えうる「経営基盤」へ
もちろん、これで終わりではありません。
「名簿」という守りの要(かなめ)が固まった今、ようやく本来やりたかった「攻めのための基盤構築」に着手できます。
- タスク管理(Inbox)の実装:社長の脳内にある「やるべきこと」を全てNotionに逃がし、思考のメモリを解放する。
- チャットボットの導入:LINEやメールの問い合わせ対応を自動化し、顧客対応の品質を均一化する。
- 売上拡大への備え:会員数が2倍、3倍になっても、バックオフィスが破綻しない「強固な経営基盤」を作る。
「売上が上がるのが怖い」ではなく、「いつでも来い」と言える状態へ。
M様の事業は今、職人の個人商店から、組織としての強い事業体へと進化しようとしています。
今回の事例のように、最初から完璧な自動化を目指す必要はありません。
まずは足元の「不安」を技術で取り除き、少しずつ理想の形へ近づけていく。
そんな泥臭い「一歩目」こそが、事業を強くすると私は信じています。