「今はやめた方がいいかもしれないです」
Notion導入の相談をいただいたときに、こう伝えることがあります。
私自身はNotionを勧めている立場です。クライアントの情報管理や業務設計をNotionで構築する仕事をしています。
それでも、すべての会社にNotionがベストだとは思っていません。導入を勧めることはあっても、強要はしていません。
導入しないという選択も、正解のひとつです。
なぜ、組織導入で温度が下がるのか
特に「組織で導入したい」という相談の場合、途中で温度が下がるケースが少なくありません。
申請が必要だったり、上層部がITツールに馴染みがなかったりして、検討すらされないこともあります。許可を出すリーダーや業務の責任者が、「あまり効果がないんじゃないか」と感じていることが多いです。
なぜそうなるのか。ひとつのたとえで考えてみます。
情報管理は「迷路」のようなもの
たとえば、日々の情報管理は迷路のようなものです。
複雑な迷路でも、ゴールにはたどり着けます。ファイルを探し回って、チャットを遡って、スプレッドシートのタブを切り替えて。時間はかかりますが、結果的にはたどり着く。
一方、シンプルな迷路でも同じゴールにたどり着けます。
違いは、たどり着くまでの時間だけです。
ただし、導入の許可を出す人は、普段その迷路を歩いていないことが多い。毎日その迷路に入って情報を探しているのは現場のスタッフであり、許可を出す側はその複雑さを体感していません。
だから、迷路がシンプルになったところで、自分は入らない。そもそも情報管理にコストがかかっている、という意識がないのです。
そうなると、「導入しても変わらないんじゃないか」という判断になります。
見えないコストを、数字にしてみる
では、その「見えないコスト」はどれくらいの規模なのか。
McKinseyのレポートによると、ナレッジワーカーは業務時間の約20%を社内の情報検索に費やしているとされています。8時間勤務なら、毎日1時間半以上です。
仮にその半分、つまり1日あたり48分を削減できたとします。
- 5人のチームが、毎日48分ずつ情報を探す時間を減らせたとする
- 月の営業日を20日とすると、月に約80時間が浮く
- 一人あたり月給20万円で雇用している場合、時給換算で約1,200円
- 1,200円 × 80時間 = 月に約9.6万円分
- これが5チームに広がれば、月48万円、年間で約576万円になる
20%すべてを削減するのは現実的ではありません。しかし、その半分でもこの数字です。
しかし、この数字は迷路を歩いていない人からは見えません。「たどり着けているから問題ない」という判断になる。ここに、導入の温度差が生まれます。
だから、組織導入は小さく始める
この構造がわかってからは、組織への導入で無理に全社展開を目指すことはしなくなりました。
鉄則は、小さく始めることです。
ステップ1. 迷路を歩いている人が試す
まずは、毎日その迷路を歩いている人、つまり現場で情報を探している人が使ってみます。シンプルな迷路を歩く体験を、まず一人がする。
ステップ2. チームで一緒に入ってみる
一人で手応えを感じたら、チームメンバーと一緒に同じ迷路に入ります。チームで情報を共有し、探す時間が減る感覚を共有する段階です。
ステップ3. チームの実感を組織に浸透させる
チームでシンプルな迷路を進んでいる実感が出てきたら、それを組織全体に広げていきます。数字と体感の両方が揃って初めて、組織としての判断ができるようになります。
いきなり全社導入を目指すと、迷路を歩いていない人が判断することになります。体感がないまま判断すれば、「効果がない」という結論になりやすい。順番が大切です。
勧める側として、思っていること
Notionを勧めている立場ですが、強要はしていません。
スプレッドシートにGASを載せた方が早いなら、そちらを提案します。Google Workspaceだけで完結する方がスピードが出るなら、それも正解です。導入でスピードが落ちるくらいなら、今あるものを少し改造して使いやすくする方が、インパクトもスピードもあります。
見えないコストの削減に共感できる人には、全力で後押しします。仕組みも全部作ります。
「自分はシンプルな迷路を歩きたい」。そう思えた方は、一緒にその未来にしていきましょう。