「専門用語が多すぎて、AIが使えない」
建設業のクライアントとの打ち合わせで、こんな相談をいただきました。
現場の定例会議を録音し、その内容を議事録にまとめたい。しかし、建設現場で飛び交う言葉には、一般的なAIでは正確に拾えない専門用語が大量に含まれています。
「文字起こしツールは試したんですが、変換がめちゃくちゃで。直すのに結局、手で書くのと同じくらい時間がかかるんです」
AIによる文字起こし自体は、すでに多くのツールで実用レベルになっています。しかし、業界特有の専門用語が多い現場では、そのままでは精度が出ないというのが実情でした。
やりたかったこと:「録音から、使える議事録まで」
クライアントが描いていた全体像は、以下のような流れでした。
- 会議の音声を録音する
- 録音データをAIで文字起こしする
- 建設用語を正しく反映した議事録を自動生成する
- 議題・決定事項・TODO・要調査事項に整理する
- 過去の議事録を蓄積して、いつでも検索できるようにする
理想としては完璧です。しかし、これを一度に全部作ろうとすると、いつまでも動き出せません。
最初にやったこと:「用語リストを1つ作る」
打ち合わせの中で私が提案したのは、最初から全体を自動化することではありませんでした。
まず、建設用語リストを1つのスプレッドシートにまとめること。
現場でよく使われる専門用語と、その意味・正しい表記を一覧にする。シンプルなリストです。
このリストさえあれば、AIに「この用語集を参照して、文字起こしの内容を修正してください」と指示できます。一般的な文字起こしの精度が、一気に現場レベルに近づきます。
用語リストを「手で全部作る」必要はない
「用語リストを作ると言っても、建設用語は膨大で…」という声が上がりました。
そこで提案したのが、AIを使った用語集の自動生成です。建設関連の公式サイトや資料をソースとして読み込ませ、用語集を自動で生成し、テーブル形式でエクスポートする。
完璧な用語集ではありませんが、ゼロから手作業で作るよりも圧倒的に早い。足りない用語は、実際の会議で出てきたものを都度追加していけば、使うほど精度が上がります。
用語リストは一度作ったら終わりではありません。現場で新しい用語が出るたびに追記していく「育てる辞書」として運用するのがポイントです。
次のステップ:議事録のテンプレートを決める
用語リストの次に取り組んだのは、議事録のフォーマットを先に決めておくことでした。
会議の録音を文字起こししただけでは、ただのテキストの山です。そこから必要な情報を毎回手作業で拾い上げるのは、結局これまでと変わりません。
あらかじめ「議題」「決定事項」「TODO」「要調査事項」の4項目に分けるテンプレートを用意しておけば、AIに「この形式で整理してください」と指示するだけで、使える議事録になります。
「事前情報」を渡すだけで、精度は段違いになる
もう一つ、打ち合わせの中でお伝えしたことがあります。
AIに議事録を作らせるとき、音声データだけを渡すのではなく、事前に「プロジェクト名」「会議名」「参加者名」を入力しておくだけで、出力の精度が大きく変わります。
AIは文脈がわかるほど正確になります。「誰が」「何について」話しているのかを先に教えてあげるだけで、議事録の質は段違いです。
- Step 1: 建設用語リストをスプレッドシートで作成(AIで自動生成+手動で追記)
- Step 2: 会議音声を文字起こしツールでテキスト化
- Step 3: 用語リストを参照させ、AIで議事録フォーマットに整理
- Step 4: 議事録を蓄積し、検索・振り返りができる状態に
「最適解」じゃなくても、「来週から回る」
正直なところ、この方法が業界のベストプラクティスかどうかはわかりません。
建設業に特化した議事録サービスがあるかもしれない。もっと洗練された仕組みがあるかもしれない。
しかし、今回のクライアントにとって大事だったのは、「来週の会議から使える」ことでした。
新しいサービスを契約して、社内で稟議を通して、導入研修をして…という手順を踏んでいたら、いつまで経っても議事録は手書きのままです。
すでに使っているスプレッドシートとAIツールの組み合わせだけで、まず動かす。足りないところは、運用しながら改善していく。
完璧を待つより、今日から回る仕組みの方が、現場では価値があります。
- 用語リスト: スプレッドシートにまとめてAIに参照させる
- フォーマット: 議題・決定事項・TODO・要調査の4項目で統一
- 事前情報: プロジェクト名・会議名・参加者を入力してから実行
- 運用改善: 新しい用語が出たら都度リストに追加
「属人化した議事録」を、チームの資産に変える
このクライアントが最終的に目指しているのは、議事録の自動化だけではありません。
過去の議事録を蓄積して、誰でも検索・参照できる状態にすること。
「あの案件で、どんな決定がされたか」「前回のTODOは何だったか」。こうした情報が、特定の人の記憶やメモ帳ではなく、チームの共有資産として残る。
今はまだ、その全体像の入り口に立ったところです。まずは用語リストと議事録テンプレートから始めて、蓄積の仕組みは次のフェーズで整えていく予定です。
大事なのは、「最適解を探し続けること」ではなく、「今日できることから始めること」です。
その積み重ねが、半年後には確実な仕組みになっています。